
日常生活で使える舞台用語
2022年02月28日 大橋 可也
雑談
株式会社アクアの取締役を務めている大橋可也(おおはしかくや)です。私はシステム開発に関わるかたわら、コンテンポラリーダンスの振付家、演出家としても活動しています。今回は日常生活でも使える舞台用語を紹介しましょう。
上手と下手
「ちょっと、右のキャビネットの引き出しから書類を取ってくれる?」「これですかー」「いやいや反対側だって。」こういう会話、よくありますよね。
こんなときは、上手と下手を使いましょう。
舞台上から見て左側(客席から右側)が上手、舞台上から見て右側(客席から左側)が下手です。 これでもう迷うことはありません。
ちなみに、英語だと、上手=Stage Left、下手=Stage Rightといいます。あまり面白くありませんね。
見切れ
僕たちの仕事でもよく使ったりします。「タブレットで見ると保存ボタンが見切れちゃっているんだけど」とか。
しかし、「見切れ」には「見えない!」という意味と「見えている!」という意味もあります。
見えない見切れ
舞台の構造などの理由で、ある客席から出演者が見えない場合に使います。 どうしてもそういう客席が生じてしまう場合は「見切れ席」として安く販売されるケースもありますね。コンテンポラリーダンスだとダンサーが床で動くことも多いので、縦の見切れ(前の観客の頭で床の動きが見えない)をチェックすることも重要です。
見えている見切れ
出演者が登場までの待機をしているとき、その出演者は登場のきっかけを探るため舞台上の動きに集中しています。あるいは、場面転換をおこなうスタッフは舞台に上がる必要があります。 彼らの姿が観客に見えてしまうと興醒めですね。舞台の構造や客席の位置によっては、見えてしまうことがあります。 どの位置なら見えてしまうのかチェックし、見えてしまうときはどう対処するのか判断するのも演出家や舞台監督の大事な仕事です。
これからは「見切れている」と指摘があったとき、どっちの意味か考えなくてはいけませんね。
飼い殺し
「誰々さん、出向先の会社で飼い殺しだって」あまり耳にしたくない会話ですね。
舞台上ではどうしても飼い殺しが発生する場合があります。
出番待ちの出演者や場面転換のスタッフの見えてしまう見切れが解消できないとき、ずっと出番が来るまで見えない場所で待機する必要があります。 このことも「飼い殺し」と呼んでいます。
これも飼い殺しになる当人にとってはつらい状況であるのは変わらないので、できるだけそういう状況が起きないような演出にするのが、現代の演出家には求められると思います。
ダメ出し
これも皆さん既によく使っている言葉だと思います。おそらく、テレビで芸能人が使うからだと思いますが。舞台用語ではありませんが、最近は「撮れ高」みたいな言葉も日常的に使われるようになったみたいですね。
舞台では演出家が出演者に対して演技など修正すべき点を指摘するときに使われます。出演者にとっては戦々恐々の時間です。昔の演出家は灰皿投げていましたね。
劇場に入ってからの通し稽古の後には、ダメ出しの時間が設けられていて、舞台監督が作成するタイムテーブルにはあらかじめその時間が確保されていることもあります。私が演出するときは、ダメ出しという言葉を使わずに、確認やフィードバックの時間というようにしています。
舞台作品のクオリティは演出家が責任を負うべきですが、あくまでそれは役割に過ぎないと思います。 出演者やスタッフもともに作品をつくり上げる立場であることに変わりはないので、演出家が特権的にダメ出しをする時代ではないと思っています。
というわけで、「ダメ出し」という言葉については、日常生活でも使わないほうがよいのではと提案させていただきます。
続編もどうぞご期待ください。